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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.88 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

都市景観を語る言葉 (19)ボーっ

(株)アーキネット代表 織山 和久

ボーっとできる場所

築地市場の脇で一息つく

キャンパス広場に腰かけて佇む

にぎやかで刺激的な都市空間に、人々はボーっとできる場所を求めている。築地市場の脇で、買い物や観光の合間に、植栽を囲う塀の上に腰かけて一息つく。講義や研究の合間に、広場の階段に座って、ぼんやりと佇む。する。下町の道端のブロックに腰かけて、近所の顔なじみの人々が行き交う生活道路を目の前にして、のんびり夕刊を読む。

必要なのはベンチというほど大袈裟で用途が決まったものではない。低い境界塀などを腰掛に見立てて座る。その辺は能動的で自由である。また位置も、公園ではちょっと遠く感じるし、一人ぼっちになってしまう。だから道端や脇がいい。そして青空が眺められるのも、ボーっとするのには欠かせない。だから高層ビルの足元にある公開空地は、青空も奪われてあんまり人が集まらない。ボーっとできる場所は、実はなかなか得難いものなのだ。

でも繁華街では、こうしたボーっとできる場所はなかなかない。店先は購買意欲を掻き立てようと、視覚・聴覚・嗅覚を刺激してきてボーとはできない。人通りのあるところは、建物全面が商品やディスプレイなどに埋め尽くされて、腰掛けられるものがない。ちょっと座って一息つくのにも、コーヒーショップに入るしかない。何かとお金がかかる。消費経済の発達とともに、都市空間はどんどん機能分化されて埋め尽くされる。消費に関わらず、特に機能も与えられるわけではないので、ボーっとできる場所は消滅寸前である。

ボーっとする意味

こうしたボーっとする時間は、人として生きていくうえで決定的に重要なものだ。最近の脳科学の研究によると、ボーっとしているときは、読書する、ハエを追い払う、といった意識的な反応をしているときの、実に20倍のエネルギーを使っていると言う。この時間は視覚や運動、言語など個々に局在する脳の領域を、さまざまに繋ぎ合わせて協調させる活動が営まれている。これがデフォルト・モード・ネットワークと呼ばれ、内側前頭前野,頭頂葉内側部(特に後部帯状回と楔前部)が中心的な役割を果たすとされる*1。人はこのデフォルト・モード・ネットワークによる内省的な活動によって、自分がいつどこでなにをしてどう感じたかなどの特定の時期や場所で個人の過去に起こった出来事や事件について思い起こし(自伝的記憶)、視点を自己から他者に移してその心のありようを理解して(心の理論)、将来の行動計画に反映させる(投影)*2。創造性の豊かな人はこの繋ぎ合わせと選別の活動がさかんであり、対照的に認知症や精神疾患などはこのデフォルトモードネットワークの機能に障害があること等も精力的に研究されている。

ボーっとしている時間は、自分を取り戻す、社会を認識する、自分をつくる、という心の活動に不可欠なのだ。そして、問題が込み入っているようなときも、ボーっとしていると突然にひらめいて妙案を思いついたりする。

ボーっとできる街

魅力的な街を思い起こすと、こうしたボーっと出来る場所があちこちにある。街に関係した出来事が、ボーっとしているうちに記憶として定着して自分の生き方を見直すことになったりするからだろう。

そうした街で人々が腰掛けるのは、広い階段や噴水の際、波止場のピット、玄関先の段差…。あるいは、うちから道端に持ち出した木の椅子。目の前には広場や生活道路、川、海辺など開けた場所で、空が広い。のんびり夕焼けも楽しめる。そうした場所は賑わいもあって、話を交わせる人々も少なくない。金銭のやりとりなどで煩わされない。

これからの街づくりには、この「ボーっとできる場所」をどのように中心市街地に埋め込むか、が大切になると思う。人のための都市を取り戻すように。

だめな街は「ボーっとできないね」、いい街は「ボーっとできる」と言い表してみよう。

* 1 Marcus E. Raichle, Ann Mary MacLeod, Abraham Z. Snyder, William J. Powers‡, Debra A. Gusnard, and Gordon L. Shulman: A default mode of brain function,PNAS,2001
* 2 R. Nathan Spreng and Cheryl L. Grady: Patterns of Brain Activity Supporting Autobiographical Memory, Prospection, and Theory of Mind, and Their Relationship to the Default Mode Network, Journal of cognitive neuroscience, 2010
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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