都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
都市景観を語る言葉 (15)雨を楽しむ
(株)アーキネット代表 織山 和久
東京は雨が多い。気象庁の調べ1)では、降水量1mm以上の日数(平年)は、年間101日。ちょっとでも降った日を数えると、194日にもなる。2~3日には一度は雨が降る場所である。そうなると都市空間のつくり方として〜雨をどう気持ちよく過ごせるか〜は、なかなか大事である。「ピッチピッチ チャップチャップランランラン」という気分でいきたい。
雨宿り
名古屋市西区の四間道。町家は普通に住まいとして使われている。
にわか雨に降られて困ったときに、庇の下を貸してもらえる街であれば心は和む。傘を貸してもらうこともある。困ったときはお互い様、という価値観がそこには伺える。そして庇の下は私有地なのだがこれを囲ったりせず、雨降りなどのときは共有地になる、という使い分けの知恵が働いている。庇が長いのも気候風土に合わせた知恵の賜物である。温帯の日照角度では、夏の日差しを和らげて、冬は部屋の奥まで日差しを導くことが望ましい。そのために庇が採用される。この庇は、建物外壁が直接に雨風が当たって劣化するのを抑える役目も果たしている。雨やどりができる街は、こうした価値観と知恵が生きている。だから心和むのであろう。
残念ながら、いまはこうした雨やどりの都市文化が廃れてしまう。ビルやマンションなどでは、こんな庇は不要になる。外壁に直接風雨が当たっても構わないし、室内はエアコンで空調するので遮光の優先度は下がる。一戸建てもプライバシー重視ということで、外側にブロック塀が連なって第三者は入れない。このまま雨やどりの場所は、最寄りのコンビニエンスストアになってしまうのだろうか?
夕涼み
夕立の後は、涼しくなって過ごしやすい。人々は浴衣姿でのんびり縁側で過ごし、ふらっと表に出てはぶらぶら歩きを楽しむ。夏祭りでは、子どもたちも浴衣に着替えて、金魚すくいに興じる。「二人きりの夕涼みは 二度と来ない季節」という歌も懐かしい。
お祭りの夜、金魚すくいの光景。
でも、この夕涼みも今はなかなか難しい。まず100年の間に、東京の気温は3℃も上昇した。原因の2/3は舗装、1/3はビル壁面の輻射熱のためである2)。昔は夕方28℃だったのが、今は31℃となれば夕涼みも厳しい。夕立ならいいのだが、局所的集中豪雨ではのんびり過ごすどころではない。この局所豪雨は、高層ビルの輻射熱とビル風が上昇気流を生んで、ビルの風下に積乱雲を急激に発達させるために発生すると言われている3)。住まいも、風が通る開放的なつくりではなくなってきた。部屋ごとに間仕切りして、窓を閉めて冷房をかけるのが主体である。縁側もない。街をぶらぶら、と思っても、お店もおしゃれな商業ビルに囲い込まれてちょっと寄れない。大通りは車が往来し、歩道橋を上り下りするのも億劫である。
夕涼みができる街は、貴重だ。
スカム
立会川や目黒川沿いでは、雨の後は、猛烈な臭気に覆われる。雨を楽しむどころではない。この異臭の元はスカムである。スカムとは、川底に堆積した汚濁物質が、有機物の分解などによって発生する硫化水素やメタンガスの浮力によって水面上に浮上したもの、要するにヘドロが腐ったものだ。
原因は、貧しい都市インフラにある。路面がアスファルト舗装で覆いつくされて、浸透性がないためにちょっとの雨で下水管がオーバーフローする。東京23区の8割が合流式下水道のまま4)なので、降雨時にオーバーフローするとし尿を含む未処理下水が河川に放流される。河川はコンクリート整備のため、自然の川底の浄化能力を失っていて、こうした汚水によるヘドロが蓄積されている。
こうして東京湾に汚水が流れ込んで、赤潮・青潮を発生させる。東京五輪のトライアスロン競技ではスイムはお台場が会場になるそうだが、あんまりだ。法外なスタジアムに何千億円も費やすより、分流式下水道を整備し、河川を再自然化するのが先決なのでは、とも思う。臭い話だ。
目黒川に浮かぶスカム。臭い。
★ ★ ★
自分たちの暮らす街が、雨やどりや夕涼みができそうなら嬉しい。街の魅力については、特に雨のときを考えて、この「雨やどり」「夕涼み」を切り口にするといろいろ見えてくる。それにしても「スカム」はあんまりだろう。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。