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コーポラティブハウスの魅力
都市景観を語る言葉 (12)おクルマ様
(株)アーキネット代表 織山 和久
よその星から来た宇宙人の目には、東京はクルマが最も繁栄していると見えるだろう。クルマが不自由なく進めるように、通り道は縦横に広々と整い、道に面して巣が並ぶ。クルマを甲斐甲斐しく世話するのは二足歩行の物体で、クルマのために道を空けて、群れになって遠回りし、巣の奥に控える。
すっかり慣れっこになってしまったが、こんな都市の様子に気づいたときには「東京はおクルマ様の都市だ」と言ってみよう。このおクルマ様には決めゼリフがいろいろある。
控えおろう
渋谷ガード下付近。246号線の上に歩道橋がかけられ、大勢の人々が上り下りして道路を超える。頭上には高速道路もかけられ、大変な歩行環境である。246号線によって街も南北に分断される。
おクルマ様のお成り〜、二足歩行の物体はその邪魔をしてはならぬ。邪魔にならないように、歩道橋を設けて階段を上り下りするのが道理である。おクルマ様ご一行が少人数で、二足歩行の群れが大きくても、控えるのが当たり前である。
切り捨て御免
商店街を通過する商用車。抜け道として利用されている。歩道は狭く、歩行者、ベビーカー、自転車がすれ違うのも厄介である。
おクルマ様は、抜け道となれば商店街の真ん中をぶったぎるようにお通りになる。商店街の連続性も分断され、二足歩行で商店街のこちらと向こうで行き交えば不届き者として手打ちになる。
でもおクルマ様はこの街には何も貢献せず、危険と排気ガス、騒音を残していくだけだ。最近でも延焼遮断帯の形成という名目(効果は薄い)で、街を分断するように都市計画道路の拡幅工事が進める。
ゆるりと参ろう
通行量のある片側三車線の路上も、信号の合間などはこのように空く。それにしても沿道のサクラは、誰のために咲いているのだろうか。
クルマ様は、前後左右にたっぷり間をとる。ある時点で都区部の路上にあるおクルマ様は、平均して5~600m2を占めている。道の脇では、大勢の歩行者がすれ違いにも困るほど込み合っているのとは対照的である。都区部の土地利用面積の割合で公園6.3%に対して道路は21.9%、駐車場分を考えると半分にもなろう。
ここまでたっぷりおクルマ様が都市空間を占有していても、平均速度は時速20kmに満たない。都市内交通手段として、おクルマ様の効率の低さは群を抜いている。
よきに計らえ
建物前面に車が並ぶ。
駐車車両が一車線を占有している光景もよく目にする。
クルマ様は、外出から戻ると下足も脱がずに、そのままお休みになる。したがって建物のその前面に寝そべっている姿が並ぶ。街並みの美観を考えた建物でも、表の顔はおクルマ様になる。二足歩行の物体は、おクルマ様のお世話が終わると、その脇をすまなそうに通り過ぎて控えの間に戻る。
ときには道の途中で、連れだってお休みになることもある。お役目にて、お咎めの是非に非ず。
おクルマ様をおしいただいて、その下に市民を位置づけるような社会は、このような決めゼリフがはまるようにとんでもない時代錯誤ではなかろうか。
でも都市を、おクルマ様から市民の手に取り戻すのは、本当はそれほど難しくはない。市街地への車の乗り入れを規制する。ライジング・ボラートを利用すれば、緊急車両や商品搬入車等を選別して通行させることもできる。都市内の近距離移動のためには、一車線を自転車専用に割り当てる。そのために自動車を一方通行にするのもいい。こうした路上空間は人々が自在に往来し、さらに青空市場やカフェなどを誘致できる。者ども出あえぃ。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。