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コーポラティブハウスの魅力
都市景観を語る言葉 (2)和む
(株)アーキネット代表 織山 和久
都市景観を語る言葉を充実させて、少しでもよい建築や街並みができるようにしたい。そこで前回の「恥ずかしい」に続き、今回は「和む」を選んでみた。
例文 「この横丁は、和むねえ」
図1 町屋の横丁。湾曲した道沿いに、こじんまりとした建物が並ぶ
右の写真は、町屋のある街路である。この路上では近所の子供たちが丸を書いて遊び、おじさんが道端に腰かけて夕刊を読んでいる。そこここで買い物途中の奥様が立ち話をする姿も見かける。こんな都市景観は、まさに和むというのにふさわしい。
じっくり観察すると、和みを醸し出す要素が分かってくる。第一にはゆるやかに湾曲した道。道幅も4mほどで等身大だ。見通しのいい幹線道路と違って、ちょっとした囲われ感があるのがいい。それに車も滅多に通らない。第二には、周りの建物と配置である。高さと間口が、二階・三間間口でだいたい揃っていて、安定したリズムを感じる。建物同士の合間には、視線が通って生活感が滲み出るし、光や風も導かれる。道に面した一階部分にはそのまま出入口が設けられ、ガラス扉で中の様子も伺えるお宅もある。街と住まいがゆるやかにつながっている。ブロック塀で囲う住宅は少ない。第三は、道沿いには住宅だけでなくて、定食屋や喫茶店などがあちこちにある点だ。日常の買い物なども徒歩圏で用が足せる。馴染みの店に寄れば、会話も出来る。鉢植えを道端に並べて世話をすれば、気軽に挨拶もするし、自分が達者と知らせられる。年老いても安心で、一人暮らしでも孤独にならずに済む。何気ない街の風景だが、まるで見えざる手が「和み」をもたらしたかのようである。
図2 湾岸のマンション街。
四車線の車道と二十階建てのマンションという大まかな街並み
比較として、湾岸のある街区を見てみよう。和み感はすっかり失われている。片道二車線の道路がまっすぐ通って、人は脇の歩道に追いやられる。路上の車の台数に比べて、歩行者の人数の少ないこと。こんな様子では遊びや読書はもちろん、立ち話もできそうもない。道沿いの建物も、高さ50m超でそばに寄ると圧迫感がある。間口も次の交差点まで切れ目なく延々と続く。プライバシー重視なのかもしれないが、街と住まいとは完全に切り離されている。こっちの街区はマンション、あっちの街区はショッピングセンター、と区分けされているので、日々の買い物も車主体で徒歩ではない。この街は、和みとは全く反対方向を指向していることが分かる。
上の写真のような都市景観を見かけたら、「和む」という言葉を思い出そう。これに類して「下町の魅力」といった言葉もあるが、上と下と順位づけるようなのも何だし、山手でも下町でもこうした街並みはできるので、やっぱり「和む」と言う方がいいと思う。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。