都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
コーポラティブで【マンションの注文建築】が可能になるワケ
(株)アーキネット代表 織山 和久
居心地の良い住まいを合理的に実現する仕組み
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コーポラティブハウスの事例:三宿ハウス。一般的な分譲マンションとは一味もふた味も違う、プラン上の創意工夫がいっぱい |
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新鮮な素材を上手に切り分けて、適材適所の調理法で美味しく安く提供する・・・・・。コーポラティブは魚の丸物買いに似ているかも |
「居心地の良い住まいが欲しい。こだわりというほどでもないが、自分たちの暮らしぶりや好みを大事にしたい。分譲マンションのプランは、どこもありきたりで自分たちの暮らしとズレがある。もし土地や予算があれば、建築家に頼んで自分たちが心地良い戸建てを建てられるのだが・・・」。
こうした願いをかなえるために、何世帯かが一緒になって、建築家に依頼して集合住宅を「建てる」方式、それがコーポラティブハウスです。そして、都心でも、集合住宅にしか活用できない土地であれば、割安になるのがミソです。
例えばタイやヒラメ、ブリといった魚を買うときは、切り身より丸物の方が、余計な手間や包装もなくて割安で、切り口から酸化もせずに新鮮です。丸物をさばいて、脂身・赤身・かま・アラ・えんがわ、と好みに応じてとり分けることができます。
コーポラティブハウスも同様です。戸建て用に割れない土地を一体で生かせば割安になります。集合住宅なのでスケールメリットも働き、間の壁や柱もあって、同じ鉄筋コンクリート造でも戸建てより工事費を抑えられます。マンションメーカーが住棟を切り分け、付帯設備をまぶしてパッケージング、人手をかけて販売する、といった手間や費用も省けます。また住戸プランも一律にするのではなく、場所や空間ごとの魅力を引き出して、それぞれの暮らしの好み――静かさが大事、日当たりが一番、プライバシーを重視、オープンがいい、一体空間が好み、個室に分けたい――に応じたプランニングもできます。
コーポラティブハウスが自分たちで「建てる」方式なのに対し、建売や分譲マンションは業者から「買う」方式です。建売業者やマンションメーカーとしては、効率よく売るために万人向けの画一的なプランにするため、ひとりひとりの暮らしとズレが生じるのは仕方がありません。また広告宣伝費やマージンなどのコストがかさむために、販売価格の6割程度が正味の土地・建物代で、残りの4割がこうした経費やマージンで占められる、というのも「売る」事業の宿命なのです。
分譲マンション方式は住宅不足の時代ならではの方式。いまはその大量供給・高コストの事業体質が厳しくなり、コーポラティブハウスという方式が注目を集めるようになってきました。
「建築家と住み手のパイプ役」が必要
アーキネットのコーポラティブハウスでは、設計は建築家に依頼しています。なぜ建築家なのでしょうか?
ヘアスタイルならヘアスタイリストに頼みますし、病気を治すなら、お医者さんに診察してもらいます。法的な問題なら弁護士に相談します。誰もが一律に坊主刈りにしたり、やみくもに市販薬を飲んだり、テレビの法律相談で済ますような人はいないでしょう。ありきたりではなく、ひとりひとりの願いをかなえるために最善を尽くす、生きていくのに大切なことは、こうした専門家に依頼するはずです。
住まいの場合、その専門家は建築家です。場所の魅力を引き出し、経済性も含めて豊かな空間を構想する。ひとりひとりの思いをくんで、ちょうど良いプランをしつらえる。依頼者の立場で工事の質や工程を監理する。
住戸ごとの打ち合わせの光景。コーポラティブなら、まるで一戸建ての注文建築のように、思い通りの住まい作りも可能に
自分たちにとって居心地の良い住まいを実現しようとするなら、建築家に依頼しない手はありません。
建築家が設計することは、コーポラティブハウスではとても重要です。木造一戸建ての平均寿命は30年、みっともない建物でも一代限りで解体です。
対照的にコーポラティブハウスは鉄筋コンクリート造ですから寿命は60年以上、住まい手が世代交代しても愛着をもって住み続けることが求められます。地域にとっても、みっともない建物が残るのは困りものです。優れた建築家が手がければ、先々を見通した設計で、ライフステージやライフスタイルが代わっても暮らしを支えていく空間を生むことができます。そして街並みに配慮した優れた建築になりますから、周辺で建替えが発生するとき、設計の手がかりにされることでしょう。
こうした相乗効果で、長い年月のうちに街並みがより魅力的に変わっていきます。優れた建築は一帯の土地の価値を上げるので、転売するときも有利になる可能性があります。
ただ一般には建築家とは縁遠いせいか「趣味を押し付けられるのでは?」という不安を抱く向きもあります。プランや作品を見て気に入ったにしても、まだ心配かもしれません。そこでわれわれのようなプロデュース会社がパイプ役として登場し、住まい手と一緒になって思いを形にするような建築家を紹介しています。
信頼できる建築家に出会うことで、空間性の豊かなフレームを手に入れ、自分にふさわしい間取りやインテリアをあつらえる・・・。コーポラティブハウスならそれが実現できるというわけです。
このような方式としての合理性から、ドイツでは累計250万戸、アメリカで100万戸、スウェーデン50万戸と、欧米ではコーポラティブハウスが主体です。日本でも住宅市場の転換期を迎えており、今後はコーポラティブハウスの存在感がさらに大きくなることでしょう。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。